私たちの子供の頃、刺身魚を食べる欧米人はほとんどいなかった。昔から生魚はギリシアやイタリアや南洋の島々でも食べられてきたが、いずれもオリーブオイルに合わせてマリネにしたりビネガー漬けにしたり…、日本の刺身とは少し趣が異なる。 魚を生で食す文化は、日本の集落が海岸線沿いに発展し、魚が陸にあがってから直ぐに食卓に上ったことと、醤油という素材を引き立たせる調味料があったからだと記憶している。 今では、流通網の発達と冷凍技術の発達で世界中どこでも新鮮な食物が手に入るようになり、醤油も一般化した。生魚の消費はこれからますます拡大するだろう。 日本が世界一の長寿国と言われるようになり、日本食が長寿食としてもてはやされ、その勢いもあって世界の生魚食人口が急増したことは明らかだ。 長寿国になれた理由は食事のおかげだけではなく、国内の医療施設の発達もあったように思う。 聞くところによると、世界の透析患者の40%が日本人だというし、入院ベッド数は人口で3倍以上の米国よりもはるかに多いという。簡単に入院できることが…、そして長生きすることが、私は一概に幸せだとは思わないが、恵まれた国に生活していると思い、感謝することは大切のように思う。 昔欧米人は、生魚を食べる食習慣を野蛮だと言って敬遠してきた。それが長生きのためには、彼らは自ら野蛮人に変身した。 人間は、生きるためには価値観を変えられる生き物だ。しかし、それはそれで変えられずに命を落とすよりはましかも知れない。 高齢化社会に向かう日本において、動けないのに長生きする人が増えるのはどうなんだろう…? やはり“ピンコロ”に魅力を感じるな…。ピンコロとは、医学用語(?)で、ピンピン生きてコロッと逝くことらしい。 日本食がそんな食事に進化していくことを期待する。 |