毎週週末になると京都からマダムの店にやって来る客がいる。名前と大体の年齢以外は謎が多い独身男性で、どうやらIT関係の仕事らしい。聞いても分からないから教えないのかも知れないが出会って4年になるのに誰に聞いても仕事の内容は詳しくは分からない。 時間は自由に作れるようだから会社に勤めている風ではない。 英語の読解力は優れており、2年ほど前から米国制のタブレット型電子書籍を手に入れ持ち歩いてはダウンロードして英語の小説を読んでいる。 一見して無邪気である。 面白い話だと思うと瞳を思いっきり開き、耳を大きくして、首を伸ばして食いついてくる。 彼には好きな女性がいるらしいのだが、その彼女のことをマダムに相談しにくるということも京都からわざわざ新幹線でやってくる理由の一つに違いない。 無邪気と言う表現をしたが、いまだから言うが最初に出会ったときは、少し頭が足らないかと思った。それが、“天才”の印象に変わった。 彼に年賀状を書いた。すると小学校低学年の子供が描いたような線画と下手字の返信賀状が届いた。“あっちゃん”を尻尾で縛り上げた“タツ”を“ニカウ”さんが槍で突き刺しており血が出ているという絵である。私にはなんのことか分からない。 天才は他人から自分のことを上手く…良く…見られたいという気持ちがないに違いない。 天才は、失敗することを恐れないに違いない。 天才は、恐るべきマイペースに違いない。 改めて、彼の天才ぶりを思い知った。 改めて、天才に気に入られるマダムの懐の深さを思い知った。 彼をみていると、他人とは違うことをやりたいと常に思っている自分が恐ろしく普通に思えてくる。 |