学生の頃、アルバイト先の飲食店の顧客が酒を飲んで私に腕相撲を挑んできた。定年退職前の、もう若くはない男性だが、腕相撲で今まで負けたことがないと自信をもっていて、同じように私も負けたことがなかったものだからお互い真剣に力を出し切った。勝負がつかずに動かなくなったものだから、私のほうから“引き分けにしましょう。”と声をかけ、グリップをほどいてしばらく経過したが、若くない男性の息は荒かった。 後で同じアルバイトの友人が“どうして負けてあげないんだい。相手は年寄りのお客さんだし、酒を飲んでるし…心臓麻痺で死んだらどうするんだい。”と、私に悟した。 私はハッとして、友人が大人に思え、自分が周囲の見えない子供に思えた。 今年の元旦、ラグビーを趣味とする今でも筋トレしている34才の甥から腕相撲を挑まれた。力が均衡して動かなくなった。私は“体に悪いからもうダメ。やっぱり強いは…負けた。”と、途中で止めた。 私は年上なんだから、負けてくれればいいのに…と思った。 そして、そんな風に思った自分が、やけに年寄り臭く感じた。 |