アメリカ人画家で、アンドリュー・ワイエス(1917~2009)という作家がいる。私が彼を知ったのは、十代の後半だった。京都国立近代美術館で日本初の展示会があり、大きなインパクトを受けた。 数年後アメリカ周遊の旅に出た時も各地の美術館で彼の作品を探して歩いたものだ。 私は今、はじめてワイエスの作品に出会った頃の彼の年齢に追いついた。 今日の午後、友人と町の空港のカフェに入った。 2年ほど前に一人でそのカフェでお茶を飲んだことがあったが、その時と同じ席に座ることになった。テーブルの横には背の低い木製の本棚があり、そこには以前と同じ数冊の洋書が置かれており、そのなかの一冊であるワイエスの画集を手に取った。 昨秋、磯江毅の展覧会にいっしょに行った友人は、ワイエスのことを知らなかった。私は磯崎毅も山本二三もワイエスの影響を受けていることを知っている。私は、友人にワイエスと他の作家との違いについて熱弁した。 ワイエスは、描きたいと思う対象を描いている。他の作家は上手いと思われる絵を描いている。 作品に向かう姿勢に、大きな違いがある。 友人に話して聞かせた後で、私自身が改めてワイエスの素晴らしさを感じた。 今晩、家に帰って段ボールのなかに仕舞い込んでいる彼の画集を、引っ張り出そうと思う。 若い時の美的感性が、今でも私の血のなかを流れていた。 それが、私なんだと思った…。 |