昨日、芦屋にある谷崎潤一郎記念館に行った。そもそも私は彼の作品で読んだことのある小説は“細雪”しかない。その他思い当たることは数十年前にテレビ放送されていた映画“春琴抄”を少し見たことがある。禁断の愛を描いていたように思う。“卍”という物語も確か禁断の愛…同性愛を描いていたように思う。そのくらいの知識しかない。この度、記念館を訪ねた理由は、谷崎の小説の描かれた当時の時代背景を感じたかったから…展示物を見ていてある確信を得た。このような文章が展示物のなかにあった。「私は私の崇拝するあなたに支配されることを寧ろ望んでいる者なのです。」…これは小説のなかの架空の文章ではない。谷崎が何人かの好意をもった女性に実際に送った恋文のなかで使いまわした文章である。谷崎は老齢になっても二十歳代の女性に恋していたと聞く…。こそばくなるような文章を見て、谷崎は助平なおっさんだと確信した。しかし時間がたつにつれ、彼は男として、いくつになっても心の底から女性を愛することができたに違いないと思った。彼は年を重ねても純粋というに相応しい思いを女性に向けることが出来たに違いない。私には、逆立ちしても書けない恋文である。私には純粋さが欠けているのだろうか…どう考えても同じようには書けない。私の人生には、谷崎のような出会いは訪れないだろうと…妙な納得をしている私がいる。 私のなかには、献身を捧げられる人に出会いたいという願いはあるのだが… 軽いため息をつきながら、売店で“阪神間モダニズム”という本を買い求め、記念館を出た。 |