別宅の庭で松の樹を見つめている会長のお姿は、初めてお会いした時と比べると肩の肉が落ち腰が曲がり、小さくなられた。 同時に自分も同じように年を重ねているのだと気が付く。 通された居間の大きな一枚板のテーブルには、いつものように会長の横にいつの間にか奥様がお座りになった。 仕事の話を済ませた後、出会いの話や、若い頃には仕事の後にネオン街を豪遊した自慢話とか…雑談に終始した。 2時間ほど経過し、私が夕方の会議のため席を立つ前、神妙な顔で会長の目を見つめて語りかけた。 “この度の結果は残念だということを前提に、私が言うのは、立場上おかしなことかとは思いますが、人材のことを考え、周囲の状況を考え、将来を見据えたうえで、人の力量を見定められ、先をみることのできる会長が、このたび私どもとの契約を解約すると結論を出されたことは、正しい判断であったと信じます。長い間有難うございました。”と、言って頭を下げた。 “そう…分かってくれるか、あなたにそう言ってもらえるのは本当に嬉しい。”と、隣で聞いておられた奥様と同じように涙をにじませた。 尊敬する会長を讃える私の言葉が通じたと思った。 例え二度と会えなくとも決して忘れることのない人との別れの時だと自分に言い聞かせて別宅を後にした。 |