周囲には、店や人家も見当たらない山の中の小さな駅に降り立った。私たち以外の降車客は足早に駅の出口に急ぐ。様子をうかがっていると、彼らは線路の上に出て乗ってきた電車が消えていった100m先のトンネルへ向かって黙々と進んで行く。線路を通るルートが、どうやら村への近道らしい。私たちは駅員に、彼らの後に続いても良いかたずねた。すると「いいとは言えんけどね・・・みんな通っているし・・・」私たちは、それ以上駅員に問わずに村人の後を追った。陽はみるみる暮れ線路は闇に包まれ始めた。同時に50~60m先の最後尾の村人が突然小走りになった。この電車は単線だし、乗ってきた電車が今通った後で、すぐに次の電車がやって来るはずがないと高を括っていた私たちは同じ速度で歩き続けた。100mほどのトンネルの半ばまで来たときには、前を行く村人の姿は消えていた。暗い闇の先の小さな出口の向こうにある街頭がやけに明るく感じるトンネルを歩き続けた。突然トンネルの一方の壁に光が差し始めた。その光はますます強さを増し、光源の確認ができたときあっという間にトンネルの全体を照らし始めた。私たちは、走った。横に逃げ場があるどうかを確認する余裕もなく必死で走った。電車がブレーキの金属音を鳴らして急停車した。幸い列車と壁の間にはかなりの隙間があった。それから、私たちは一呼吸おいてまた走った。全速力で走った・・・。と言うより今度は逃げた。車掌が降りてくると思って必死で逃げた・・・。 今日、その同じ駅に立ちホームからトンネルを眺めた。40年ほど前の同じ暑い夏の出来事が鮮明に思い出された。恐ろしいことも、いたずらも、楽しいことも、悪いことも・・・いっぱい経験したかった私の“スタンバイミー”の日々・・・。 |