彫刻と塑像の違いを一言で言うと、彫刻は削る刻む彫るというマイナスの作業のみを繰り返した後で残ったものが形として残る。塑像は最初に芯(骨格)を作り(芯のない場合もあるが)その芯に別に用意した素材を付けて行くというプラス作業を繰り返して形を作る。二つの作品はプラスとマイナスという相反する作業によって形が作られるわけだ。完成作品を見ると一見どちらも同じような形に見えるが、よくよく見てみると作品の放つ緊迫感の違いに気がつく。彫刻は削りすぎると、もとにもどせない。常に真剣勝負で作品に向かわなければならない。塑像が真剣に作られていないというわけではないが、付けすぎれば外せばよいわけだから、幾分緊張感が緩和されるように思う。 今日、マダムが先の日曜日にバスをチャーターして会いに行った木版画家の小品を自宅から持ってきた。眺めていると、緊迫感を感じる。木版も彫刻の分類に入るのだろう。マイナスすることで形が出来上がる。削り過ぎれば、修正すなわち誤魔化しとなる。 自分の人生に置き換えてみた。私の人生は足らないものを付けて行く人生か・・・それとも持っているものを削る人生か・・・若いうちは、何でも吸収するプラスの人生を生きたように思う。しかし今、人生の残りが少ないと思えば、見てくれを気にせず、間違えることなく余分なものは脱ぎ捨て、持ちすぎたものは振り落とさなければならない歳になった。後戻りする時間は年をとるともったいない。自分が緊迫感のある作品を残さなければならない誤魔化しの利かない年代に入ったと思った。 |