知人のフランス料理のオーナーシェフと話をした。 話したと言うより、彼の話を聞いた。彼の店は、とてもいい店で・・・美味い食材に妥協せず、調理技術も優れ、外交官やエールフランスのスタッフも立ち寄る名店である。 彼は、話した。 “リーマンショック以降顧客が減ったが、時間をかけて持ち直してきて、今年の冬・・・1月・2月の普通なら売上げの落ち込む月に、いままでにないほど売上げがあがった。ところが、3月の東北の震災で、また急降下の落ち込みがあり、おまけに今まで使ってくれていた薬剤関係の会社の接待が来年から全国的に禁止になるらしく、周りを見ても暗い話しか入ってこない。先が見えず、これからどうしたらいいか分からない・・・。”というものだった。 彼の話を聞いていると、町場での景気の冬が徐々に厳しさを増している様子が伺える。 “あなたの店が我が町ではなく東京にあったなら、絶対に繁盛店間違いないんだけどなぁー”と以前なら、慰めにならない励ましを言えたものだが、震災以降は東京も厳しそうだ。 みんな自粛して、美味いものを食べなくなったんだ。 そう言えば、近くで繁盛してそうな店は、焼鳥屋かこじゃれたチェーン店しかなさそうだ。 私も最近焼鳥屋によく行くようになったし・・・。 彼に私ができることは、彼の店に食べに行くことしかなさそうだ。 焼鳥屋に行きたいけど、我慢して、おいしい彼の料理を食べに行こうと思った。 そう考えていないと、今までいいと思っていたものが、自分のまわりから、どんどん去っていってしまう寂しさを感じる。積み重ねの人生が崩れてしまう怖さを感じる。 彼の話を聞いて、世の中の流れに、ささやかな抵抗を試みようと思った。 |