ある落語家が、“笑い”とは、緊張と緩和を交互に挟むことで起こる…と、言っていたが、優れたスピーチもこの法則に当てはまることが多いのだろう。一本調子のスピーチは、どんなに優れた内容をもっていても、聞いていて退屈だ。 記憶に残るスピーチは、上げて下げて…と、波を上手く起こしている。 30年以上前に、評論家の竹村健一の講演を聞きに行ったことがある。最初から最後まで講演のテーマとは関係ない話ばかりして、講演時間も少なくなり参加して損をしたと思ったその瞬間に、竹村健一が最後の締めでこう言った。 “皆さん今日の話で、これだけは是非、覚えて帰ってください。賢者は愚社に学び、愚社は賢者に学ばず。” その時は、なんて人を馬鹿にした講演なんだと思ったが、檀上でパイプをくゆらす彼の様子がいまだに鮮明に私の頭に焼きついている。考えればそれだけインパクトのある締めだったと言わざるをえない。 スピーチなんて、計算された緊張と緩和も大切だが、最初っからその場に関係なくても、思いついたことを、どんどんしゃべって、最後の一言だけ心に残ることをしゃべる…なんてのも、ありだろう。 ともかく、しゃべることが苦手な方は、プロしゃないんだから、みんな自分のスピーチなど、真剣に聞いてはいないと思って、最後の締めだけ押さえて、気楽におしゃべりすればいいんだと思う。 |