リンゴ まど・みちお リンゴを ひとつ ここに ひとつ リンゴの この おおきさは この リンゴだけで いっぱいだ リンゴが ひとつ ここに ある ほかには なんにも ない ああ ここで あることと ないことが まぶしいように ぴったりだ ものが「ある」ことの不思議さを、考えさせられる詩だ。 〈リンゴが ひとつ ここに ある ほかには なんにも ない〉 リンゴのある空間には、リンゴがある分だけ、ほかのものがあり得るはずがない。 あるものが「ある」ということは、そのほかのものが「ない」ということである。 あるものが「ある」ためには、そのあるもののぶんだけ、ほかのものが「ない」状態でなければならない。 ほかのものが「ある」場合には、あるものはそこには「ない」のだ。 なんだか、禅問答のように「ある」「ない」「ある」「ない」とくりかえしているが、ものが「ある」ということを、こんなふうに考えてみるのも面白いのではないか。 それを、詩人まど・みちおは、 〈あることと ないことが まぶしいように ぴったりだ〉 と、言い表しているのである。 「ある」と「ない」は、正反対の意味だ。 その正反対ののものが、同じだというのではない。 でも、 〈まぶしいように ぴったりだ〉 と言われたら、イメージとしては、同じと感じてしまう。 それが、詩なのだ。 「リンゴ」の詩の内容を、説明文で書くとしたら、子どもにもわかるように書くには、どのくらいのことばが必要かわからない。 |