きりん まど・みちお きりん きりん だれがつけたの? すずがなるような ほしがふるような 日曜の朝があけたような名まえを ふるさとの草原をかけたとき 一気に100キロかけたとき 一ぞくみんなでかけたとき くびのたてがみが鳴ったの? もえる風になりひびいたの? きりん きりん きりりりん きょうも空においた 小さなその耳に 地球のうちがわから しんきろうのくにから ふるさとの風がひびいてくるの? きりん きりん きりりりん まど・みちおには、動物の名前が題名になっている詩がたくさんある。 いちばん有名なのは、「ぞうさん」だろう。 「きりん」という題名のも、5つ以上あるのではないか。 この「きりん」だが、きりんの名前を、 〈きりん きりん きりりりん〉 と、すずやかに鳴らす、まど・みちおという詩人の、ことばに対する感覚のすごさに、ただ驚くばかりだ。 私などは、きりんと聞いたら、ビールしか思い浮かばない俗な人間だが、そんな私でも、この詩を読んだあとなら、 〈きりん きりん きりりりん〉 と、音が聞こえてくる。 私が、まど・みちおの詩が好きなのは、詩の内容に心うたれることはもちろん、もう一度読んでみたい、何度でも読んでみたい、と思うところにある。 〈きりん きりん きりりりん〉 声に出して読んでみると、この音を出すために、「きりん」という名前をつけたのではないかと思うほどだ。 吉田定一の、「うしさん うふふ」もそうだが、目で読んで黙読するよりも、声にだして詩を読んだほうが、詩をたのしむことができる。 日本の詩のはじまりである、万葉集の歌も、声にだして読み上げたほうが、歌の味わいが深くなるようである。 現代語訳されたものはまだしも、万葉仮名で書かれたものは、読むだけでひと苦労だ。 そもそも口頭で歌ったものに、中国からきた漢字をあてはめたものが、書きのこされた万葉集なのだから。 詩とは、読みあげるものだったのだ。 さて、私ももう一度、「きりん」を読むことにしよう。 |