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ともだち塾の文芸日記

 
2009-03-21

ミミコの独立

カテゴリー: 日記
  ミミコの独立   山之口 貘

とうちゃんの下駄なんか
はくんじゃないぞ
ぼくはその場を見ていったが
とうちゃんのなんか
はかないよ
とうちゃんのかんこをかりてって
ミミコのかんこ
はくんだ というのだ
こんな理屈をこねてみせながら
ミミコは小さなそのあんよで
まないたみたいな下駄をひきずっていった
土間では片隅の
かますの上に
赤いはなおの
赤いかんこが
かぼちゃとならんで待っていた


 山之口 貘は、日常生活の一コマを切り取ったような、生き生きとした詩を書いている詩人だ。

 詩という短い文芸では、どのことばも、詩全体のイメージを作り上げるために、詩人が考えて書かれたことばである。

 て・に・を・は、一つでも違うと、その詩のイメージが変わってしまうほど、詩では一つひとつのことばが大切だ。
 たとえば、〈赤いかんこ〉が〈かぼちゃ〉でなく、ショートケーキと並んでいたとなったら、この詩の世界は、ずいぶん違うイメージになるであろう。

 題名は「ミミコの独立」と、おおげさに書いているが、下駄を〈かんこ〉と言う幼い女の子の、自己主張している様子が、ユーモラスに描かれている。

 ユーモアとは、読者がおもわずクスッと笑うような内容のものをいう。
 ユーモラスな作品の中の登場人物本人は、コッケイなことをしようとしているのではなく、それどころか大まじめに行動しているのだが、それを見ている読者がおもわず笑ってしまうのである。

 さて、〈ミミコ〉のユーモラスないいぐさに、おもわず笑ってしまうのだが、題名が「ミミコの独立」となっているので、こんな幼い女の子にも自尊心があるのだ、この女の子が成長したとき、父親の思いはいかばかりかと、これまた、おもわず考えてしまう。
 もちろん、そう考えさせるように、作者が考えてつけた題名なのだ。

 題名を「赤いかんこ」や「下駄」または「小さいミミコ」とした場合と、「ミミコの独立」となっている違いを想像してほしい。
 詩の本文のイメージからはすこし離れた感じで、しかしそれを包括したイメージに、この「ミミコの独立」という題名はなっていると思う。

 詩を読むとき、題名をどのようにみるかと考えるのも、詩を読む楽しみのひとつといえる。