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ともだち塾の文芸日記

 
2009-03-27

三日月

カテゴリー: 日記
  三日月   松谷 みよ子
いかついくちばしを胸ふかくさしいれ
くらい森をみはりながら
ふくろうは かんがえる

生まれてくる子には
赤い三日月をとってやろう
上にのってゆうらりゆれたり
ころがしたり
くわえたりしてあそぶだろう
森がそこだけ
ぼうっと ひかるだろう
きのこなんかも ひかるだろう

やがて父親となるふくろうの
いかついくちばしが つぶやいている


 松谷みよ子は、「竜の子太郎」などの創作民話や、「ふたりのイーダ」など命をテーマにした作品を書いている作家だ。
 「三日月」も、民話的な雰囲気をもった、とても印象的な詩だ。

 この詩は、民話的な雰囲気の詩であるとともに、ファンタジー詩でもある。

 1連と3連は、現実のふくろうという鳥のことを書いたのだとしても、おかしくない文章の内容になっている。
 しかし、2連で書かれていることは、現実の世界ではありえないことである。

 そのありえないことが、父親が子どもにしてあげたいこととして思うと、すべて納得できるものだ。
 ことがらとしては、現実ではありえないことだけど、イメージとしては納得できる、ことばを変えていえば、リアリティがあるというのが、ファンタジーとしての作品の価値を決定づけるものである。

 〈いかついくちばし〉という、同じことばが、詩の最初と最後にでてくるが、最初の〈いかついくちばし〉のふくろうと、最後の〈いかついくちばし〉のふくろうのイメージが、変わってくる。

 ふくろうは、「夜のギャング」といわれるほどの猛禽類なので、最初の〈いかついくちばし〉のふくろうのイメージは、怖さを感じるだけだ。

 そのふくろうが、子どものことを考えている2連は、父親としてのやさしさがイメージされてくる。
 この2連のイメージがあるために、3連の〈いかついくちばし〉のふくろうのイメージが、同じことばであっても、1連の〈いかついくちばし〉のふくろうのイメージとは、ちがってくるのである。

 詩は、イメージの文芸といってもいいだろう。
 もちろん、ほかのすべての文芸も、イメージをもとにして、筋をたどって読みすすめていく。
 だがとくに詩は、題名も含めて、一つひとつのことばのイメージで、詩全体のイメージを作りあげていくのである。