彼女の見ているビジョンや思い出は、ひじょうにはっきりしているようだった。あやふやな所はまったくなかった。名前、時代、着ているもの、木、すべてがありありとしていた。何が起こっているのだろう? その時の彼女の子供が現在の姪だなんてことがあり得るのだろうか? 私は、ますます訳がわからなくなった。それまで何千人も精神病の患者を診てきたし、催眠療法も数え切れないほど行ったが、こんなに見事な幻想には、夢の中の場合でさえ、一度も出会ったことはなかった。 時をもっと先に進めて、死ぬ場面に行くようにと、私は彼女に指示した。こんなにはっきりした幻想(それとも思い出?)の中に浸っている人に、どう対処すればよいのかわからなかったが、私は、彼女の症状の原因になった事件を探していた。死ぬ時に起こった事件が、特別な傷になっているかもしれなかった。洪水か津波が、その村を襲ったようだった。[つづく](『前世療法』 ブライアン・L・ワイス著 山川紘矢・亜希子訳 PHP研究所[文庫]刊) |