青森を出て、程なく弘前へ入る。ここは、かつて弘前城を中心として栄えた城下町である。
新興都市として広がる青森市に比べ、ところどころ旧市街の趣を残すのが弘前市である。
現在、弘前城は、弘前公園として開放されている。
だが、本日、黒石まで向かわねばならない。黒石はローカル線、弘南鉄道の終着だ。よし、まだ時間はある。弘前公園へはバスで行くことにし、駅の案内所に向かう。
2、3人、同じような観光客が道を尋ねている。私の番がまわって来た。早速、弘前公園は?と尋ねると、案内の娘さんは、ニコッとしながら市外図を広げてくれた。循環バスが出てると云う。色の付いたペンで地図を辿りながら、2番乗り場から乗って市役所前で降りて下さいと云う。この時間は、もう中央の天守へは入れないと教えてくれた。ありがとうと云ってその場を去る。
しかし、日が傾く前とはいえ暑さが皮膚を射す。ようやく、バスが到着し、一路目指すは弘前公園。バスに揺られてるうち、市役所前と案内放送が流れ、ここで下車。
東門から中へと入ると、芝の広がる閑寂な風景である。地元の若いカップルがなにやら、楽しそうに方言をしゃべっている。少し前を、日除け帽を被った年配の夫婦が、川の方を眺めながら歩いている。
あまりゆっくりしていると、帰りの循環バスに乗れなくなるので、なりふり構わず天守へと走った。
とにかく無心に走った。メロスは黒い風のようには走った。・・・・
天守周辺は有料領域となっており、入口では切符の売り子が帰宅の身支度をしていた。
もう終わりですか。はい、5時で有料時間は終わりです。時計を見ると、あと5分で5時になろうとしていた。じゃあ、そこで待ちます。先程の若い男女がやってきた。声をかける間なく、売り子の方へ行ってしまった。横に私がいたせいか否か定かではないが、売り子がこちらを見ながら、先程と同じように、5時からは無料ですとの説明をしていた。
5時になった。天守を横目に一目散、奥の展望所を目指す。実は、天守周辺が目的ではなく、弘前公園から見える岩木山が目的だった。この岩木山は、白神山地の北に位置し、津軽富士と呼ばれるほどこの地方では象徴的な山で、まさに富士山を彷彿させるような形状の山である。列車の路線が、この山を囲うように周辺を走っており、何処からでも観賞できる。
残念なことに、新緑の木々のせいで若干、視界が狭かった。季節を間違えたようだ。
それでも岩木山の幽玄な姿に感動を覚えながら、帰路へと向かう。門へ近づくと、日本一・・・と云う文字が目に付く。よく見ると、日本一太い幹をもつソメイヨシノというやう
なことらしい。場内建物の裏口付近にあるので、注意しないと気付かずに通り過ごしてしまそうだ。弘前公園は、桜の名称としても知られており、春には観光でにぎあう。
私は、信頼に報いなえればならぬ。いまはただその一言だ。走れ、メロス。・・・・
メロスは弘前駅へと走った。
ここから、弘南鉄道で弘前から黒石へと向かったのだった。
黒石 盛美園編へと つづく
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