「大きな波が木を押し倒してゆきます。どこにも逃げ場はありません。冷たい。水がとても冷たい。子供を助けないと。でも、だめ………子供をしっかり抱きしめなければ、おぼれそう。水で息がつまってしまった。息ができない、飲み込めない、塩水で。赤ん坊が私の腕からもぎ取られていってしまった。」 キャサリンは、あえぎ、息ができなかった。突然、彼女の身体がぐったりして、呼吸が深く安らかになった。 「雲が見えます。………私の赤ん坊も一緒にいます。村の人たちも。私の兄もいます。」 彼女は休んでいた。その人生は終わったのだった。彼女はまだ深いトランス状態にいた。 私は、驚きあきれていた。前世だって? 輪廻転生だって? 彼女が幻想を見ているのでもなければ、物語を作っているのでもないことは、私の医者としての知識からも確かだった。彼女の考え方、表現の仕方、細部への注意の向け方などすべて、普段の彼女とは違っていた。精神医学のあらゆる事例が私の心をよぎったが、彼女の精神状態や、性格からは今起きたことを説明することはできなかった。 (『前世療法』 ブライアン・L・ワイス著 山川紘矢・亜希子訳 PHP研究所[文庫]刊) |