人々や森の木々も深い眠りに沈み、そして『新しい1日』という命を迎えようとしている暁前。 澄み切った秋の夜空の中を何か忘れ物をしたかのように少しだけ欠けた月が精一杯に輝いて微笑みを浮かべていた。 少しだけ欠けた月が心の鏡に映し出されたこの時…少しだけ欠けた月は私の胸の中で、命ある存在になった。話し掛けたくなり抱き締めたくなる…美しくもあり涼やかで温かい命ある存在になった。 ずっと見つめていたい… この胸の奥までスポットライトのように照らしてほしい。隠していた心の傷を癒すかのように光を充ててほしい…今なら素直になれそうな気がする。 そんな少しだけ欠けた月もじっと立ち止まってはくれない。そうなんだ私達も立ち止まってはいられないんだ。 音もたてずに眠れる人たちを起こさないように西の彼方へ消えてゆき、また新しい顔で夜の中を迎えに来ては闇に沈む人々の心の陰を照らし、夜の静けさに怯える人達に優しく路を照らしてくれる。生きる希望と力を与えながら優しく路を照らしてくれる。 こうしている間にも少しだけ欠けた月は西の空へ動きながら別れの支度をしている。 もうしばらくすれば鳥たちはさえずりはじめ、太陽がこの町を朝焼けに染めながら新しい1日を告げに来る。 少しだけ欠けた月に命を感じました。 少しだけ欠けた月に“生きる”と云うことを静かに感じました。 |