「おはよう。」
「おはよう。」
最後のデートは、いつも通りはじまった。
いつも、バンソウコウと携帯電話しか持ち歩かない彼女が紙袋を持参していた。
「その紙袋はなに?」
「あなたが前に、私の作ったおにぎりを食べたいって言ってたから…」
約束事を大切にする君の、君らしい行動だと思った。
「朝早くからご飯炊いてくれたんだ。ありがとう。」
「ご飯は、昨日の残りなの。」
おにぎりが乾燥していないか…なんて、気にしない、気にしない…
「じゃあ、今からシートを買いに行って、前に計画した通り、若草山に食べに行こう。」
「ダメ、お昼のコース予約してるし、おにぎりは持って帰ってね。」
時間がたてば、おにぎりがカピカピになる事を丁寧に説明しました。
と、いう事で、近くの公園で頂く事になりました。
「具は何が入ってるの?」
「昆布とふりかけなの。」
几帳面な彼女らしい、正三角形をしたおにぎりでした。
「具がはみ出ないように、強く握ったから固いかもしれないよ。」
「君が作ったおにぎりだから、そんなの関係ないよ。」
「どう?」
小さい頃に初めて握ったおにぎりって、握り加減が分からなかったし、とにかく三角形にするのに全力を注いでいたら、おにぎりがカチカチになっちゃって、今食べてるおにぎりって、こんな感じだったような…
僕の為に、慣れない事してくれたんだと、とても嬉しかった。
けど…
「握る時に、塩を使わなかったの?」
「えっ?おにぎり作るのに、塩って使うの?」
彼女がおにぎりを出す時に、
『私だって、おにぎりくらいは作れるのよ』
と、誇らしげに言っていた言葉が、頭の中でこだました。
そう言えば、二、三ヶ月前に彼女との会話で、
「ツナって、マグロなの!!」
って、目を見開いて驚いていたっけな…
デートにおにぎり持ってくるタイプの彼女ではないから、胸がいっぱいになった。
最後のデートだと知って、苦手な事に時間を費やしてくれたんだね。
君は人を本当に愛した事がないと言うけれど、今朝してくれた事は、愛する入口なんだよ…
小さめのおにぎりだったけれど、ギュウギュウに握っていたから、お腹もいっぱいになった。
「ごちそうさまでした。今までで、1番嬉しったかもしれないな。」
「おにぎりも食べた事だし、お昼食べにいこ~」
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昼
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お任せでイタリアンのコースを食べていた時、
「私の作ったおにぎりと、どっちが美味しい?」
「う~ん、なんて言うか、うまく言えば、接戦かな。」
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帰り道
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大好きな人と過ごす時間は、あっという間です。
槇原敬之さんの歌詞で、別れた彼女に対して、
『君の事が大好きだったから、もう恋なんてしないなんて言わないよ』
と、言ってたけれど、僕は、
『君より好きになる人はいないから、もう恋はしないよ』
楽しかった。
幸せだった。
17ヶ月間、本当にありがとう。
淋しくなっちゃうな…
淋しいな…
淋しい…
「君と今日で最後だから、来週から淋しくなっちゃうな…」
「あなた、ココ・シャネルの映画チケットを先週に買ったって、言ってたから、最後のデートは来週にしようよ。」
何故か、最後のデートが次回になりました。
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そこには、大好きな君が僕の傍にいてくれますように…