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たかしの読書日記

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2008-04-03

白い巨等(第3巻)/山崎豊子

カテゴリー: 日記
第二巻までは、財前も自分のポリシーを貫いているという点で、潔いと書いたが、裁判の過程における態度は、医者として以前に、人間として怒りを禁じえない。なぜ、山崎氏は裁判の前に、財前に、ヒトラーによるユダヤ人大虐殺のドイツにおける負の遺産を訪れさせたのか?これにより芽生える人間の生の尊さと、人類の愚かさを裁判中には思い起こす記述がない。自分の既得権の確保と、大学の名誉の維持という大義名分のもとに、あえて感情を封印したのか?それとも、全く罪の意識がないのか?どちらにしても、モラルに反する態度には変わりない。私のもっとも嫌う行為だ。

裁判に対する、里見と柳原の苦渋の選択が対照的だ。家庭を持ち、コンサーバティブになって当然の里見が、あえて自分の立場を危うくしてまで真実を語るのに対し、若さ故の正義感を示してしかるべき柳原が、事実を封印する。里見の妻の現実的な意見も頷ける。それでも真実を語ろうとする里見には、尊敬という言葉では軽すぎるほどの態度だ。私に同じ事が出来るだろうか?私一人なら、たぶん、里見と同じ行動をしたと思うが、家族がいたらと想像すると、恥ずかしながら自信がない。

最後の裁判官の言葉が印象的だ。判決は原告の敗訴だが、裁判官の言葉だけを聞けば、原告勝訴に聞こえる。それでも、一向に反省の色を見せない、財前陣営。絶望的結末だ。しかし、これが現実だ。娑婆では、正しい者が勝つわけではない。勝った者が正しいのだ。その理不尽さを受け止めろとの、山崎氏のメッセージが伝わってくる。そして、それを変える事の出来るのは、やはり娑婆に生きている我々各個人の意識改革からしか方法はない。絶望的結末から来る怒りが、世の中を変える。そう考えたに違いない。

本来、この小説は、この第三巻で終わっていた。それが、あまりにも残酷だという読者の多数の意見で続編として書かれたものが、次に続く、第四巻、第五巻だ。しかし、私としては、この終わり方に非常なインパクトとメッセージ性を読み取ることが出来る。続編が良いかどうかは読後に述べよう。とにかく、読むのを止められない。
2008-04-02

白い巨塔(第2巻)/山崎豊子

カテゴリー: 日記
実弾飛び交う、選挙の終盤。金と権力の争い。生々しい描写だ。結局、財前は選挙で勝利をおさめる。それにより学内派閥の力関係の均衡が崩れ、新たな秩序が現れる。誰もが我が身を第一に考え、自分の利権を守ろうとする結果がこれだ。財前、里見はまだ良い。良きにしろ悪きにしろ、自分の考えを徹底的に貫いている。ある意味、潔い。それに比べ、どちらとも付かず、どちらが買っても漁夫の利を得ようとする輩が一番浅ましい。また、教授の妻達の関係が、夫達の関係に依存している所がまったくもってみっともない。夫婦共々同じ穴の狢と言ったところか。

それに比べ里見の学究心、純粋さには、心が洗われるようだ。研究者たる者、こうでなくてはならない。それを支える献身的な妻、美知代も素晴らしい。夫婦とは人間性も似てくるものだと納得させられる。いや、似ているからこそ惹かれあったというべきだろう。そして、そういう誠実な里見にほのかに想いを寄せる佐江子は本当に人間の根本を見る目を持った聡明な女性だ。僕の理想と言っても良い。飾り気のない、しかし隠しきれずに滲みだす上品さと聡明さ。そして何より柔らかい物腰に隠された芯の強さ。こういう女性とぜひとも出逢ってみたい。

話をもとに戻して、教授になってからの財前はまったくもって放漫で無礼極まりない。私の知っている著名な物理学の教授達は、有名である程、謙虚さを忘れていないように見受けられる。その意味で物理学の世界は、医学界よりも健全と言える。私は学問に大切な物は、三つあると考える。まず、精神的、肉体的かつ金銭面での忍耐力。そして、己の間違いを素直に認める誠実さと謙虚さ。最後にこれらを支える好奇心である。
2008-04-01

白い巨塔(第一巻)/山崎豊子

カテゴリー: 日記
改めて説明の必要のない程の、社会派小説の金字塔の一つ。とても25年前に書かれたとは思えない内容。豊かな表現力、緻密な描写力はもちろんの事、取材による情報収集力が素晴らしい。さすがは井上靖のもとで研鑽を積んだ作家だと思わせるに十分である。テーマと内容が未だに今日性を持っているのは、山崎氏の先見の明は言うまでもないが、いくら医学が進歩したとしても、医学界が成熟していない証拠であろう。

第一巻に書かれている封建制、政治家顔負けの裏工作などの黒い世界を見たくなくて、私は学術の道を選んだが、実際は大学と言えども、それらとは無関係な象牙の塔とは言えない。しかも、近年の大学独立法人化は、それらを加速するであろう事は想像に難くない。言うまでもなく、私は大河内教授、里見助教授の考え方に強い共感を覚える。そして、彼らのように清貧に甘んずる覚悟を持って自分の道を選んだ。今でも、この事に何ら後悔の念はない。
2008-03-31

遺書-5人の若者が残した最期の言葉/verb

カテゴリー: 日記
5つの遺書から始まる5つの物語。全員が例外なく優しく、正直で、正義感に溢れている。そして、真面目だ。その誠実さ故の悲しい結末。

彼らに強さは求めない。十分過ぎるほど強い。ただ、もう少しだけ、自分の死後の家族、友人の悲しみに対する想像力と、現状から逃げる「勇気」を持って欲しかった。逃げる事は弱さ故ではない。現実逃避しても良いではないか。人生は長い。いつでも取り返しがきく。その柔軟性を持って欲しかった。強さ故の現実逃避は奨励すべきだ。

現実とは何故こんなにも苦しいのかと、思い悩んでいる方には是非読んで頂きたい。ただ、もう少し、取材班が突っ込んだ取材をして欲しかった。分量が倍になっても良い。いや、ご家族の心境を考えると、これが限界か。
2008-03-30

哲学/島田紳助、松本人志

カテゴリー: 日記
面白半分で最初手にしたが、すぐに引き込まれた。彼らの笑いに対する真摯な態度に驚かされる。人を喜ばせたり、泣かせたり、寂しくさせたり、怒らせたりというのは簡単だが、笑わせるという事は難しいのだと気付かされた。笑いとは、それほど、誤魔化せない、自然な、それゆえに、奥の深い感情形態なのだ。二人の自他ともに認めあう天才同士の人生観、価値観の対比が面白い。私は自分で天才だと言う人を信じないことにしているが、この二人はどうやら笑いに関しては本当の天才のようだ。
そうして、才能と言う事、プロフェッショナルであることに対する、自分に対して、また他人に対しての、厳しい目が痛い程に鋭い。
2008-03-28

九月の四分の一/大崎善生

カテゴリー: 日記
「聖の青春」を読んで、興味を持った本。ノンフィクションも素晴らしいが、フィクションも良い。「報われざるエリシオのために」は、僕の趣味には合わないが、残りの3篇はなかなか良い。単なる恋愛小説に終わっていないところが素晴らしい。個人的には、僕自身実際に行ったことのあるブリュッセルの華麗なグランパレスが描かれている、九月の四分の一が、風景が目に浮かんでくるようで思いれが深い。

フィクションであるが、大崎氏の経歴から考えると、ノンフィクションの部分が大半ではないかと想像する。大崎氏の人生の苦悩の断片がうかがえるようだ。
2008-03-27

リアル(1), (2), (3), (4)/井上雄彦

カテゴリー: 日記
感涙物。必読の書。漫画と侮る無かれ。車椅子バスケットボールをテーマとして描かれるストーリー。時系列的に書かれておらず、主人公も一人に定まっていない。そこが良い。

印象的なシーンは数え上げればきりが無いが、強いて一つあげるとすれば、一巻で、戸川の車椅子を指し、野宮の、「これは、こいつの才能だ。」というセリフがある。これは凄い。才能は英語では talent, ability, gift と言うが、私は gift が一番好きである。神様からの贈り物、それが才能。だからこそ、外国では才能をもった者は尊敬され、日本のように妬まれ、出る杭が打たれることはない。

戸川に与えられた試練は神からの贈り物だ。その象徴が車椅子。そして、それは彼の神からの贈り物、「才能」なのだ。

泣けるストーリー満載。唯一の欠点は続きを読むのに1年間待たなければならぬ事。とても待ちきれない。

障害者スポーツの意味を考えさせられる。また、くどいようだが、障害者は英語で、disabled person もしくは handicapped。どちらも、適格ではない。disabled はむしろ使うべきではない。どちらかと言えば handicapped か。でもそれを言えば、すべての人間はなんらかの意味で handicapped だ。完璧な人間など存在しない。

とにかく、理屈抜きで良い。

こんな漫画が増えて欲しい。
2008-03-26

遺言-桶川ストーカー殺人事件の深層/清水潔

カテゴリー: 日記
この本は、読者の為に書かれた本ではない。今も何処かでせせら笑っている誰かへの著者のメッセージだ。警察上層部とストーカーとの癒着も暗示しており、たぶん彼らへのメッセージだ。しかも、我々にはわからないが、当事者にはわかるような形でヒントが隠されており、自分はここまで知っているんだ、覚悟しておけ、との憤りを読み取る事が出来る。

最初はストーカー被害の凄惨さがテーマかと思い読み始めたが、そうではなかった。この事件のような人格障害者はどこに居てもおかしくない。そういう人と関わった時に、警察がどういう対処をしたか?それが公になった時に、どのように隠蔽工作、蜥蜴の尻尾切りをしたか?が問題なのだ。しかも、現在警察当局は、またもや、被害者を傷つける行動に出ている。呆れて物も言えない。ストーカー被害だけでなく、警察の暗部まで暴かれて、初めて被害者とその家族が報われる日が来る。日本はアメリカと同じく自分の身は自分で守らなくてはなくてはならない時代に入ったと認識させられる。

この事件をきっかけにストーカー被害に関する法律が、異例とも言える迅速さで成立したことが唯一の救いだ。しかし、これにも裏があると考えるのは深読みのし過ぎだろうか?
2008-03-25

終わりなき日常を生きろ-オウム完全克服マニュアル/宮台真司

カテゴリー: 日記
オウム真理教、援助交際、キレる子供等の社会現象を「終わりなき日常」と「さまよえる良心」とをキーワードに、社会学的に解明し、明快な説明がなされている。この本が執筆されて以降の日本の社会状況を顧みると、宮台氏の正しさが証明されている事は、悲しいが驚くべき事実だ。(保守的な人には宮台氏の結論は受け入れ難いかもしれないが、それとは関係なく、客観的に見て。)

上に挙げたキーワードも重要だが、別の読み方として、「逆説」と「倫理と道徳」が別のキーワード足りうると思う。逆説(paradox)とは3種類あって、
(1)本当のような嘘の話
(2)嘘のような本当の話
(3)本当か嘘か論理的に決定できない話
の3つがあるが、ここでは(2)の意味である。
「良い女子高生であるがゆえに援助交際をする。」や「良心的人物が、その良心ゆえにサリンを撒く。」など。
また倫理と道徳にはちゃんとした定義があり、明らかに異なる概念である事を、恥ずかしながらこの本で初めて知った。日本にはそもそも未だかつて倫理は存在したことはなく、かつてあったのは道徳だけだと。そして、現在、その道徳がもはや崩壊したと。

現状分析は素晴らしく明快だが、それを解決する方法が具体的でないことが残念だ。ぜひともリアルタイムで読みたかったと残念でならない。
2008-03-23

恋文/連城三紀彦

カテゴリー: 日記
この本、読むの怖かった。一年ほど前、実家から家に帰ってきている電車の中で初めて読んだ。電車の中にも関わらず、涙を流してしまった。「私の叔父さん」で。他のも良いが、これは絶品。もう一度読みたいと思って手にしたが、あの時と同じ感受性を持っているのか、不安だった。「ピエロ」まで読んで、一日おいた。そして、一気に読んだ。結局、感動はしたが、涙は流さなかった。一年でこうも変わるのだろうか。感受性の衰えを突き付けられたようで、複雑な読後感だった。優しさは感受性と想像力から生まれる。僕はこの一年で大切なものを失った気がする。

ちなみに、直木賞受賞作。
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